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東京地方裁判所 平成11年(ワ)2214号 判決 1999年9月27日

主文

一  原告が別紙物件目録<略>の不動産について所有権を有することを確認する。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一  請求

一  主文第一項と同旨

二  被告は、原告に対し、別紙物件目録<略>の不動産(以下「本件各土地」という。なお、同目録記載の個別の土地は目録の番号に従い、「本件土地1」などという。)についての別紙登記目録(一)<略>の所有権移転登記の抹消を請求する権利を放棄するとの意思表示をせよ。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  平成10年10月9日当時、本件各土地の登記簿上の所有者は、N株式会社であった。

2  原告は、平成10年10月9日、不動産競売事件(甲府地方裁判所都留支部平成8年(ケ)第86号等)で、本件各土地を買い受けた。

3  Nは、遅くとも平成2年6月11日までに、本件各土地の所有権を取得した。

4  仮に3が認められないとしても、乙川一郎は、平成7年2月13日までNの代表取締役であり、平成8年10月24日まで被告の代表取締役の地位にあったから、前記競売事件の開始、進行を知り又は知り得る状況にあり、競売手続の停止申立てなどの措置を採る十分な機会があった。このような場合、民事執行法184条の規定により、原告の所有権取得は妨げられるものではない。

5  仮に3が認められないとしても、被告は、平成10年5月までの間、長年にわたり乙川及びNの不実の登記を放置していた。原告は、右登記の外観を信頼し、本件各不動産に根抵当権を設定したものであるが、被告からは真実の所有者が被告であるとの異議を受けたことはない。このような場合、民法94条2項の類推適用により、被告は、本件各不動産の所有権を原告に対し主張することはできない。

6  被告は、本件各不動産の所有権が被告に属するとして、原告の所有権を争っている。

7  本件各不動産には、平成10年5月13日東京地方裁判所へ訴え提起を原因とする別紙登記目録(二)<略>の所有権抹消予告登記が存在する。

8  よって、原告は、請求欄記載の判決を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  請求原因2は知らない。

3  請求原因6、7は認める。

4  請求原因8は争う。

理由

一  所有権確認請求について

1  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

2  証拠(甲1~23)によれば、請求原因2の事実が認められる。

3  請求原因3、5について判断する。

(一)  原告の主張する請求原因3は、被告の所有権取得原因事実を具体的に明らかにするものではないので、所有権取得原因の主張としては、いささか抽象的で不十分なものである。

(二)  <証拠略>によれば、以下の事実が認められる。

(1) Nは、宅地建物取引並びに斡旋管理等を業として昭和41年3月7日設立された株式会社である。乙川一郎は、少なくとも昭和49年以降平成7年2月まで及び平成9年12月以降、同社の代表取締役である。

(2) 被告は、昭和35年に設立された土地の造成開発を目的とする事業等を業とする株式会社である。乙川一郎は、少なくとも昭和52年から平成8年10月まで被告の代表取締役であった。平成8年10月、乙川春夫が被告の代表取締役に就任したが、同人は、一郎の義弟である。また、平成8年10月に被告の取締役に就任した乙川夏男は春夫の長男、乙川松子はその妻であり、監査役に就任した乙川たけは、一郎の義姉である。以上の家族関係から見て、被告は、乙川一郎の同族が支配する会社であるというべきである。

(3) Nは、原告に対し、平成2年2月9日、本件各土地について、極度額3億5,000万円の根抵当権を設定した。

(4) Nは、平成6年4月ころ、本件各土地一帯を「Oグリーンタウン」との名称で分譲販売していた。

(5) 甲府地方裁判所都留支部は、原告の申立てにより、平成8年9月13日、本件各土地について、競売開始決定をした。

(6) 前記競売事件に関し平成10年2月25日作成された物件明細書には、被告の権利主張について特段の記載はない。

(7) 被告は、平成10年5月13日、Nを被告として、東京地方裁判所に、本件各土地について所有権移転登記の抹消登記手続訴訟を提起した。Nは、右訴訟の第1回口頭弁論期日で請求を認諾した。右(1)ないし(6)の事情、とりわけ(5)、(6)等の事実から窺える競売事件の進行状況に照らして、右訴訟は前記競売事件の執行妨害を目的としたなれ合い的な訴訟であるという疑いが極めて濃厚である。

(三)  以上の事実に照らせば、本件各土地についてはNが所有権を取得したものであることが窺われるが、仮に、真実の所有者が被告であるとしても、被告は、乙川一郎を通じてNと密接な関係にありながら、平成10年5月まで同社名義の登記を放置し、同月に所有権移転登記抹消登記手続訴訟を提起したものの競売手続においては何ら手続の停止等のための措置を講ずることなく経過したものであり、原告はN名義の登記を信頼して本件各土地を買い受けたものであって、このような場合、民法94条2項の類推適用により、買受人である原告の所有権取得は妨げられないものというべきである。

4  請求原因6の事実は当事者間に争いがない。

5  そうすると、原告の本件各土地についての所有権確認請求は理由がある。

二  放棄の意思表示の請求(請求欄第二項)について

原告は、被告に対し、本件各土地について所有権移転登記抹消登記請求権を放棄するとの意思表示を求めている。しかし、原告の主張によっても、いかなる実体法上の根拠に基づきこのような意思表示をすることを求めることができるのかは明らかではない。原告は、本件各土地が原告の所有であることと予告登記の存在をいうのであるが、所有権に基づく物権的請求権ないしこれと類似の権利としてこのような請求が成り立つという根拠はない。

そうすると、原告の主張は主張自体失当であり、原告の放棄の意思表示を求める請求は理由がない。

(別紙)物件目録<略>

登記目録<略>

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